外来種図鑑

沖縄県は、県内の生態系や、県民の生活・社会活動への影響が大きい
以下の外来種について、重点的に対策をとっています。

グリーンアノール

Anolis carolinensis

分類:
爬虫綱 有隣目 トカゲ亜目 イグアナ科
和名:
グリーンアノール
学名:
Anolis carolinensis
英名:
Green Anole
原産地:
北米南東部・西インド諸島
指定項目:
重点対策種(沖縄県)、特定外来生物・緊急対策外来種(環境省)

※本種は特定外来生物のため、移動や飼育は禁じられています。


形態・生態

全長は12~20 cm程度で、尾長が全長の2/3程度を占めています。頭部はとくにオスで相対的に大きくなります。体色は鮮やかな緑色のことが多いですが、褐色~黒褐色のときもあり、短時間で色を変化させることができます。目の周囲が青く、オスは赤い大きな”のど袋”(デュラップ)を膨らませることができます。四肢の指は広がって”吸盤”となっており、ヤモリのように葉の表面や壁に張り付くことができます。昼行性で、おもに日当たりのよい林縁部の樹上に生息します。 昆虫類やクモ類等の無脊椎動物を捕食します。小笠原では繁殖期は4~9月で、メスは12日程度の間隔で一卵づつ土の中などに産み続けます。卵は40日程度で孵化し、幼体は次の年には成熟します(戸田ほか 2009; 自然環境研究センター 2019)。


沖縄への侵入経路と分布

グリーンアノールは、その鮮やかな体色と飼育しやすさから、かつてはペットとして人気があり、各地で販売されていました。県内のグリーンアノールは、ペットとして飼われていたものが逃げ出したり、捨てられたものが野生化した可能性が指摘されています(太田ほか 1994)。そして分布の拡大は、自力での移動の他、物資や車両の移動にともない持ち運ばれることで起きていると考えられます。

県内でグリーンアノールがはじめて確認されたのは東風平町(当時)で、1989年のことでした(千木良 1991)。1994年には、那覇市首里の公園で定着集団が見つかっています(太田ほか 1994)。2001年には那覇市小禄の公園(Ota et al. 2004)、2008年には那覇空港周辺(阿部 2009)でも定着しているのが確認されました。その後の調査によって、本島中南部に広く分布していることが判明しています(石川ほか 2011)。また、2013年には座間味島でも生息が確認されました(岩尾 2015)。最近でもうるま市や八重瀬町で新たな生息地が発見されるなど、本種の拡散は続いています。

現在のおもな定着地は、沖縄島中南部(とくに那覇市と豊見城市)と座間味島(古座間味ビーチ周辺)です。うるま市と八重瀬町でも定着のおそれがあり、そのほかにも、糸満市・西原町・沖縄市などで捕獲例、名護市などで目撃例があります。那覇市と豊見城市の一部を除けばおおむね散発的に発見されるだけで、まだ広範囲に定着しているという状況ではないようです。


生態系への脅威

① 高密度になり、小型の昆虫などを多数捕食する
1960年代にグリーンアノールが侵入した小笠原諸島では、本種が増えて高密度になった結果、とくに小型で昼行性の動物が捕食の影響を受けたことがわかっており(槇原ほか 2004)、オガサワラシジミをはじめとする昆虫類複数種が絶滅したと考えられています(苅部 2005, 2009; 戸田ほか 2009)。ただし、マリアナ諸島などでは、侵入したグリーンアノールは、定着しても、高密度になってはいないようです。そのため小笠原諸島において天敵や競争者が少なかったことが、こうした生息密度の違いに関係している可能性があります(戸田ほか 2009)。もしグリーンアノールが沖縄島北部(やんばる地域)や他の離島に侵入して数が増えた場合、捕食によって昆虫類などの小動物の個体群を圧迫する可能性があり、小笠原諸島と同様な事態が起きる恐れがあります。

② 在来のトカゲ類と、餌や生息場所をめぐって競合する
小笠原諸島のグリーンアノールは、在来種のオガサワラトカゲを競争で圧倒することで減少させていると考えられています(戸田ほか 2009)。沖縄県には、グリーンアノールとよく似た生態をもつアオカナヘビやオキナワキノボリトカゲのような在来種が生息しています。グリーンアノールが増えた場合、在来のトカゲたちは、オガサワラトカゲのように競争に負けて、減少していく可能性があります。


沖縄県の対策

対策① 粘着トラップによる捕獲
沖縄県より先にグリーンアノール対策に取り組んできた小笠原諸島では、箱型の粘着トラップによる捕獲を行ってきました (戸田ほか 2009)。 沖縄県ではその改良として、木の幹の全周を覆うことができる粘着シートトラップを開発しました。この新しいトラップにより、木の幹を移動するグリーンアノールを、より確実に捕獲することができます。シートトラップは、作業員が木の一本一本に巻き付けて設置しています。

金城公園(那覇市)における対策
金城公園(那覇市)における対策

那覇市小禄地区にある金城公園では、かつてグリーンアノールが高密度で生息していました。この公園で、沖縄県は2017年より本格的な駆除を継続して行っています。500~1000台の捕獲用トラップを設置する集中捕獲を続けた結果、捕獲されるグリーンアノールの数は減り続けており、2020年度は29匹と、2017年度の捕獲数(350匹)に比べて92%近い減少となりました。

捕獲努力量の指標であるCPUE(Catch Per Unit Effort; 捕獲努力量あたりの捕獲個体数)の値は、2017年度の0.04から、2020年度は0.0006となり、2017年度から98.7%減少しました。これは、同じ数のトラップを同じ日数仕掛けても、グリーンアノールは、2017年に比べておよそ1/100しか捕獲されなかったことを示します。これらのデータより、金城公園のグリーンアノールは、駆除により個体数を大きく減少させていると判断しています。

金城公園の木に設置されたトラップ

沖縄県が継続的に捕獲を実施したところでは、グリーンアノールは生息密度を低下させています。しかし捕獲が実施できない地域では、依然として個体数が多いところがあり、そうしたところから捕獲を実施している地域へ、新たな個体が侵入し続けています。またグリーンアノールは住宅地にも、数多く生息しています。こうした地域でどのようにグリーンアノールの対策を講じるかが、大きな課題となっています。

対策② 教育・普及活動
グリーンアノールは、沖縄島ではおもに公園や住宅地に生息しています。沖縄県ではグリーンアノールの拡散防止策の一環として、生息地周辺の住民への教育・普及活動にも力を入れています。「アノール講座」や自然観察会では、グリーンアノールを見つけても、飼ったり持ち運んだりしてはいけないことを、こどもたちに教えています。

小禄地区の児童館で開催した「アノール講座」
小禄地区の親子を対象とした自然観察会

県民の皆さまができること

今後グリーンアノールがさらに生息域を拡大させた場合、在来の生態系に多大な影響がおよぶことが予想されます。グリーンアノールから沖縄の自然を守るために、県民の皆さまができることをご紹介します。

① 車や物資で移動させない
グリーンアノールは自力での移動の他に、車や物資への付着によって分布を広げていると考えられています。また日当たりの良い場所を好むグリーンアノールは、駐車中の車両に登ることがあります。車を動かす前や、物資を車で移動させる際は、グリーンアノールが車や物資に付着していないか、確認するようにしてください。

② 目撃情報の提供
対策を実施するうえで、グリーンアノールの生息域の把握は重要となります。沖縄県はグリーンアノールの分布調査を行ってきていますが、県民から寄せられる情報は、これまでも新たな生息地の発見のきっかけとなってきました。グリーンアノールを見かけたら、写真と共に、いつ?どこで?何匹?といったような情報を、本ホームページの外来種情報フォームにお寄せください。

③ 粘着トラップの設置
那覇市や豊見城市では、調査や捕獲作業を行うことの難しい住宅地に、グリーンアノールが生息しています。そこで沖縄県では、令和3年8月から、自宅の庭木などに取り付けることができるグリーンアノール捕獲用トラップキットを配布しています。那覇市と豊見城市にお住いの皆さまのうち、庭などでグリーンアノールを見かけられた方は、設置にご協力をお願いいたします。

グリーンアノール捕獲用トラップキットについて、詳しく見る(Youtubeへ)→


ギャラリー

引用文献

阿部愼太郎. 2009. 沖縄の外来爬虫両生類対策の現状. しまたてぃ 50: 48-53.
千木良芳範. 1991. 沖縄島に持ち込まれた両生・爬虫類, Pp. 43-53. 池原貞雄(編), 南西諸島の野生生物に及ぼす移入動物の影響調査. 世界自然保護基金日本委員会, 東京.
石川哲郎・阿部愼太郎・早瀬川直充・高柳清明・今村 勝・西平明彦・當銘美奈子. 2011. 沖縄島における外来種グリーンアノールの分布. 沖縄生物学会誌 49: 9-13.
岩尾研二. 2015. 慶良間列島の外来動物. みどりいし 26: 24-34.
苅部治紀. 2005. 外来種グリーンアノールが小笠原の在来昆虫に及ぼす影響. 爬虫両棲類学会報 2005: 163-168.
苅部治紀. 2009. 小笠原諸島における外来種が固有昆虫類に及ぼす影響とその緩和への方策. 地球環境 14: 33-38.
槇原寛・北島博・後藤秀章・加藤徹・牧野俊一. 2004. グリーンアノールが小笠原諸島の昆虫相、特にカミキリムシ相に与えた影響-昆虫の採集記録と捕食実験からの評価-. 森林総合研究所研究報告 3: 165-183.
太田英利・嘉数 肇・伊澤雅子. 1994. 沖縄本島におけるアノールトカゲ Anolis carolinensis の繁殖集団の発見. 沖縄生物学会誌 33: 27-30.
Ota, H., Toda, M., Masunaga, G.. Kikukawa, A., and Toda, M. 2004. Feral populations of amphibians and reptiles in the Ryukyu Archipelago, Japan. Global Environmental Research 8: 133-143.
自然環境研究センター. 2019. 最新 日本の外来生物. 平凡社, 東京.
戸田光彦・中川直美・鋤柄直純. 2009. 小笠原諸島におけるグリーンアノールの生態と防除. 地球環境 14: 39-46.