外来種図鑑

沖縄県は、県内の生態系や、県民の生活・社会活動への影響が大きい
以下の外来種について、重点的に対策をとっています。

ニホンイノシシ・イノブタ

Sus scrofa leucomystax(ニホンイノシシ)

分類:
ウシ目 イノシシ科
和名:
ニホンイノシシ・イノブタ
学名:
Sus scrofa leucomystax(ニホンイノシシ)
英名:
Japanese Wild boar(ニホンイノシシ)・Boar-pig hybrid(イノブタ)
原産地:
本州・四国・九州とその付属島嶼(ニホンイノシシ)
指定項目:
重点対策種(沖縄県)

慶良間諸島の渡嘉敷島で九州産の二ホンイノシシが逃げ出し、繁殖しています。その影響は農作物への食害だけでなく、ウミガメ類の卵を食べるなど、生態系へも広がっています。ニホンイノシシは海を泳いで近隣の島々にも分布を拡大しているため、沖縄県と渡嘉敷村、座間味村では、有害鳥獣対策として、ニホンイノシシの捕獲を行っています。

イノブタはイノシシと家畜ブタをかけ合わせたものです。石垣島と西表島、西表島の属島である内離島・外離島で増えています。


形態・生態

本州(中国山地)産のニホンイノシシのデータによれば、雄の成体は頭胴長110~160cm 、体重 50~150kg、肩高 60~80cm 程度となります。雌は雄ほど大きくなりません。犬歯はよく発達して終生成長を続け、特に雄では牙となります。繁殖期は春~秋で.通常1 年に 1 回出産しますが,春と秋に 2 回出産することもあります。 1 回に 3~8 頭の子を産みます。雑食性で、植物の根や堅果、また小動物などさまざまなものを食べます。


沖縄への侵入経路と分布

渡嘉敷島のニホンイノシシは、イノブタ生産のために持ち込まれた複数個体(宮崎県産)が逃げ出しました(岩尾 2015)。その時期は2003年頃とされています。その後渡嘉敷島全域に広がり、また泳いで周辺の島にも渡っています。

イノブタは、各地で飼育されていたものが逃げ出したと考えられています。

県内の分布(赤色):ニホンイノシシは、渡嘉敷島・座間味島・阿嘉島・慶留間島・外地島・儀志布島。久場島でもニホンイノシシによる掘り起こし跡が見つかったとされます(高橋 2015)。イノブタは八重山諸島の石垣島・西表島・内離島・外離島で確認されています。


生活および生態系への影響

①生態系への影響

渡嘉敷島では、在来種が捕食されていることが確認されています。渡嘉敷島にしか生息しないカクレサワガニ・トカシキミナミサワガニ・トカシキオオサワガニといった絶滅危惧種のサワガニ類が、イノシシの捕食被害を受けています。渡嘉敷島で捕獲されたイノシシの胃内容物より、トカシキオオサワガニ、ケラマサワガニなどのサワガニ類が比較的高い頻度(2割以上)で発見されています。

また、慶良間諸島では、ウミガメの卵が捕食されていることがわかっています(安里・松本 2018)。渡嘉敷島での 2016 年度の調査により,ウミガメ類の産卵巣の 51~78% がイノシシの食害を受けていることがわかりました。また、座間味島のニタ浜では、2019年度の調査でアオウミガメの産卵巣99のうち 95 巣(同 90 %以上)が食害を受けました。

渡嘉敷島で捕獲された個体の胃内容物より、ミミズ類・セミ類等の土壌動物、カエル類・ヘビ類、また植物の根や球根が確認されており、カメ類の甲が含まれたとの情報もあります。その他にも、ユリ類の球根・クワズイモ・アダンの幹の芯を摂食しているとの情報が得られています。それ以外にも、ホルストガエルの繁殖地である水場環境をイノシシがヌタ場として使用し、環境を改変しているおそれがあります。

慶良間諸島において予想される生態系への影響として、イボイモリ・シリケンイモリ・ホルストガエル・リュウキュウヤマガメ・ハブ・アジサシ類など海鳥の卵や雛・イトスナズル・イゼナガヤの捕食が専門家により挙げられています。また、イノシシ由来の可能性のあるマダニ類のアカマタへの寄生、イノシシの接近などによるアジサシ類など海鳥の営巣妨害、あるいは掘り返しなどによって種子や稚樹などが影響を受け、植物群落の更新が停滞するといった間接的影響の可能性も指摘されています(沖縄県環境部 2018)。

石垣島・西表島には在来種のリュウキュウイノシシが生息しており、イノブタが交雑することで、イノブタの遺伝子がリュウキュウイノシシ集団内に広がる可能性があります。

 

生活への影響

慶良間諸島では、ジャガイモ・タイモ・サツマイモ(カンショ)・イネ等の農作物への食害が生じています。


沖縄県の対策

沖縄県では平成30年度から慶良間諸島のニホンイノシシ対策に取り組んでおり、令和元年度から座間味島、令和2年度から渡嘉敷島において試験捕獲を開始しています。渡嘉敷島では、渡嘉敷村の事業を含めて年間100頭前後が捕獲される状況が10年以上続いていますが、イノシシの個体数が減少するまでには至っていません。沖縄県では渡嘉敷島と座間味島において、自動撮影カメラを用いて捕獲効果のモニタリングを行うとともに、より効率的なイノシシの捕獲方法について検討を進めています。

渡嘉敷島におけるイノシシ捕獲数の推移(年度ごと)
座間味島におけるイノシシ捕獲数の推移(年度ごと)
簡易囲い罠で捕獲されたイノシシの子供(座間味島)

引用・参考文献
  • 安里瞳・松本和将. 2018. 渡嘉敷島における外来種ニホンイノシシによるウミガメ卵の食害 . 沖縄生物学会誌 56: 39-44.
  • 岩尾研二. 2015. 慶良間列島の外来生物. みどりいし 26: 24-34.
  • 神崎伸夫. 2002. イノシシ・イノブタ . 日本生態学会編 外来種ハンドブック. P. 77. 平凡社, 東京.
  • 国立環境研究所. 2011-2022. イノシシ. 侵入生物データベース .
    https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10240.html
  • 沖縄県環境部. 2018. 平成 30 年度 指定管理鳥獣捕獲等事業(慶良間諸島における外来イノシシ対策). 沖縄県環境部, 那覇.
  • 沖縄タイムス. 2019. 外来イノシシ急増でウミガメも被害 えさ求め、海を渡って沖縄の離島で生息域拡大か(2019年3月7日付記事).
  • 高橋春成. 2015. 南西諸島の海を泳ぐイノシシ . 総合研究所所報 23: 1-12.