外来種図鑑

沖縄県は、県内の生態系や、県民の生活・社会活動への影響が大きい
以下の外来種について、重点的に対策をとっています。

ニホンイタチ

Mustela itatsi

分類:
哺乳綱 ネコ目 イタチ科
和名:
ニホンイタチ
学名:
Mustela itatsi
英名:
Japanese weasel
原産地:
本州・四国・九州および付属島しょ
指定項目:
重点対策種(沖縄県)・緊急対策外来種(環境省)

日本本土原産の、小型哺乳類の捕食者である本種は、おもに農林業被害をもたらすネズミ類に対する対策として、国内の多くの島に、組織的に導入されました。現在でも沖縄県の12の島に生息しています。在来の爬虫類などの小動物を捕食して減少させています。


形態・生態

中型の哺乳類で、オスはメスよりも顕著に大きく、頭胴長は27~37 cm(メスは16~25cm)、尾長は12~16 cm(メスは7~9 cm)、体重は290~650 g(メスは115~175 g)程度となります。交尾期は4~5 月で、九州では年2 回の繁殖期があるとされます。おもに夜行性で、カエル類・ネズミ類・鳥類・魚類・昆虫類・甲殻類などを捕食します。


沖縄への侵入経路と分布

おもに農林業被害をもたらすネズミ類に対する対策として、国内の多くの島に、組織的に導入されました。沖縄県においては、1957年~1971年にかけて、21の島に計約12,000 頭が放されました。現在でも、そのうち少なくとも12の島に生息しています。

県内の分布(赤色):沖縄諸島(座間味島,阿嘉島,慶留間島,外地島),大東諸島(北大東島,南大東島),先島諸島(宮古島,伊良部島,下地島,池間島,多良間島,波照間島)

過去に侵入があった島(黄色):沖縄諸島(沖縄島・伊江島・伊平屋島・伊是名島・渡名喜島・久米島)、八重山諸島(石垣島・西表島・小浜島)


生態系への影響

宮古諸島で採取されたイタチの糞の内容物分析より、哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・昆虫類などがイタチに捕食されている実態が明らかとなっています。餌種の中には、絶滅危惧種のミヤコカナヘビやキシノウエトカゲ・ミヤコヒメヘビなども含まれます(河内ほか 2018; 沖縄県環境部 2020)。座間味島ではオキナワキノボリトカゲなどを捕食していたことが報告されており(関口ほか 2002)、南大東島では、希少種のダイトウヒメハルゼミが捕食されるところも目撃されています(城間 2016)。
座間味島などでは、ニホンイタチが定着した後に、在来の爬虫類などが減少したことが指摘されています(Uchida 1969)。阿嘉島のケラマトカゲモドキ、伊良部島と下地島のミヤコカナヘビ、そして伊良部島・下地島・波照間島のキシノウエトカゲは、個体数がきわめて少ないことよりその絶滅のリスクが高くなっていると考えられており、その要因としてニホンイタチの捕食が関与している可能性が指摘されています。

伊豆諸島の三宅島やトカラ列島の平島と悪石島では、ニホンイタチを導入した結果、在来陸生動物の個体数減少や絶滅が起きています(Hikida et al. 1992;長谷川 2017)。


沖縄県の対策

沖縄県では、宮古諸島の希少種を保全するため、平成28年度よりニホンイタチの防除を行っています。これまでに生息調査や糞内容物の分析等を行って、イタチの分布状況と在来種の捕食状況などを調べました。現在は、下地島および伊良部島の一部で、試験的な捕獲や、より効率的に捕獲ができる罠や餌の検討などを行っています。

①分布調査

文献情報や糞の分布調査により、多良間島や池間島などでも生息していることがわかりました。

②食性調査

沖縄県が実施したイタチの糞内容物の分析の結果、宮古島と伊良部島において、宮古諸島固有の希少種ミヤコカナヘビが捕食されていることがわかりました(河内ほか 2018)。そのほかにも、ミヤコヒメヘビやキシノウエトカゲのような希少種が捕食されていること、夏季~秋季の餌は大部分が昆虫類であること、哺乳類で好まれているのはハツカネズミかジャコウネズミであり、農業被害をもたらすクマネズミの捕食頻度はかなり少ないことも判明しています。

③捕獲

平成28年度以降、下地島と伊良部島で試験的なイタチの捕獲を実施しています。捕獲頭数は徐々に増えており、令和2年度は罠の集中設置の結果、その数は200近くとなりました。


ギャラリー

参考・引用文献
  • 長谷川雅美. 2017. 伊豆諸島におけるイタチ導入: 歴史と事実と教訓. Mikurensis 6: 56-61.
  • Hikida, T., Ota, H., and Toyama, M. 1992. Herpetofauna of an encounter zone of Oriental and Palearctic elements: Amphibians and reptiles of the Tokara Group and adjacent islands in the Northern Ryukyus, Japan. 沖縄生物学会誌 30: 29-43.
  • 河内紀浩・中村泰之・渡邉環樹. 2018. 国内由来の外来種ニホンイタチMustela itatsiによる絶滅危惧種ミヤコカナヘビTakydromus toyamaiの捕食. 哺乳類科学 58(1): 73-77.
  • 国立環境研究所. 2011-2021. ニホンイタチ. 侵入生物データベース.
    https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10320.html
  • 沖縄県環境部. 2020. 沖縄県外来種対策行動計画に基づくニホンイタチ防除計画.
    https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/documents/05-02nihonnitati.pdf
  • 関口恵史・小倉剛・佐々木健志・永山泰彦・津波滉遵・川島由次. 2002. 座間味島におけるニホンイタチ(Mustela itatsi)の夏季および秋季の食性と在来種への影響. 哺乳類科学 42: 153-160.
  • 城間恒広. 2016. ニホンイタチによるダイトウヒメハルゼミの捕食事例. 沖縄生物学会誌 54: 47-49.
  • Uchida, T. 1969. Rat-control procedures on the Pacific islands, with special reference to the efficiency of biological control agents. II. Efficiency of the Japanese weasel, Mustela sibirica itatsi Temminck & Schlegel, as a rat control agent in the Ryukyus. Journal of the Faculty of Agriculture, Kyushu University 15(4): 355-385.