外来種図鑑

沖縄県は、県内の生態系や、県民の生活・社会活動への影響が大きい
以下の外来種について、重点的に対策をとっています。

ノヤギ

Capra hircus

分類:
哺乳綱 偶蹄目 ウシ科
和名:
ヤギ
学名:
Capra hircus
英名:
Feral goat
原産地:
西アジア(トルコ~パキスタン)
指定項目:
重点対策種(沖縄県)/緊急対策外来種(環境省)

ヤギは、沖縄県で古くから利用されてきた家畜です。ヤギのうち逃げたり捨てられたりして人の手を離れ、野外で生きるものをノヤギと呼びます。

形態・生態

体の大きさや形態は品種によりさまざまですが、一般的には体重はオスが27~45kg、メスが25~35kgで、オスはメスより体が大きくなり、角もオスがメスより比較的長くなります。体色は多様で、白、黒、褐色、それらが混合したものがあります。

繁殖期は、沖縄県で一般的な品種では秋から冬ですが、品種や地域によってほぼ1年中となるタイプがいます。

さまざまな木本・草本類の葉、芽、樹皮を食べ、高所を好み、断崖絶壁も往来できます。湿気や雨を好まないため、雨に濡れた草は食べないとされています。


沖縄への侵入経路と分布域

沖縄県では15世紀ごろに家畜として持ち込まれたとされています。

これまでの調査やヒアリング結果から、少なくとも沖縄諸島、慶良間諸島、八重山諸島など19の島々において生息していると考えられます。

県内の分布確認状況:沖縄島やんばる地域、伊平屋島、屋那覇島、渡嘉敷島、儀志布島、ウン島、座間味島、慶留間島、安慶名敷島、安室島、粟国島、多良間島、水納島(多良間)、西表島、小浜島、鳩間島、新城上地島、波照間島、魚釣島

ノヤギの生息が確認されている島

生態系と私たちの生活への影響

ノヤギによる生態系への影響として、多様な種類の草木を旺盛な食欲で食べてしまうことと、踏圧によって裸地を作り出すことがあげられます。とくに島嶼において、ノヤギの食害はその生態系に大きなインパクトを与えてきました(常田 2002)。また、土壌流出による各種の生息地および海鳥の繁殖地の消失などの陸上生態系への影響だけでなく、海域への土砂流入にともなう漁場・サンゴ礁への悪影響などのおそれもあります。

ノヤギはがけ地など開けた傾斜地を好むため、植生を食べることで土壌を崩壊させ、結果としてみずからの好む環境を作り出していることが指摘されています(亘 2016)。

西表島では、ノヤギによるシマシラキやナンヨウリュウビンタイなどの食害が報告されています。

尖閣諸島の魚釣島では、1978年に放されたノヤギによって植生の破壊と土壌流出が起きており、センカクモグラ・センカクサワガニをはじめとする魚釣島固有の動植物などへの悪影響が懸念されています(Yokohata et al. 2003; 横畑ほか 2009)。

沖縄県以外の国内外でも、ノヤギは問題になっています。鹿児島県奄美大島の曽津高埼では、ヤギが海岸植生を食べた結果、海岸のがけが崩落を起こしています(亘 2016)。小笠原諸島では、ノヤギによる植生の破壊とそれにともなう土壌の浸食や、その結果としての鳥類の営巣環境の消失や陸上昆虫類の生息環境の破壊といった陸上生態系への影響、あるいは土壌流出によるサンゴ礁や各種底生生物などを含む海洋生態系への影響等が指摘されています。


沖縄県の対策

2021年度に県内におけるノヤギの分布情報を収集・整理しました。

2022年度から西表島において、2023年度からやんばる地域において捕獲作業を開始しました。2023年度までに、西表島では31個体、やんばる地域では32個体のノヤギを捕獲しました。

やんばる地域の国頭村辺戸~奥では、残存個体が少数もしくは根絶間近となっていますが、西表島では地形や植生によりアクセスが困難なため林内や山地部における捕獲が課題となっています。


県民の皆様ができること

① 飼っているヤギを逃がさない

ヤギは、逃げないように柵の中で飼いましょう。台風時には、丈夫な囲いに収容しましょう。

野山や無人島などにヤギを放さない

野山や無人島などにヤギを放してはいけません。こうした行為は、地すべりの原因となったり、サンゴ礁・漁場への土砂の流入など、取り返しのつかない環境の劣化につながる可能性があります。


引用文献
  • 沖縄県外来種対策行動計画に基づくノヤギ防除計画
  • 国立環境研究所侵入生物データベース(ヤギ)
  • 常田邦彦. 2002. ヤギ(ノヤギ). 日本生態学会編, 外来種ハンドブック. Pp. 80-81. 地人書館, 東京.
  • Yokohata, Y., Y. Ikeda, M. Yokota, and H. Ishizaki. 2003. The effects of introduced goats on the ecosystem of Uotsuri-jima, Senkaku Islands, Japan, as assessed by remote-sensing techniques. Biosphere Conservation 5: 39-46.
  • 横畑泰志・横田昌嗣・太田英利. 2009. 尖閣諸島魚釣島の生物相と野生化ヤギ問題. IPSHU研究報告シリーズ 42: 307-326.
  • 亘 悠哉. 2016. 外来哺乳類の脅威―強いインパクトはなぜ生じるか? 水田拓編, 奄美群島の自然史学. Pp. 313-331. 東海大学出版部, 平塚.