外来種図鑑

沖縄県は、県内の生態系や、県民の生活・社会活動への影響が大きい
以下の外来種について、重点的に対策をとっています。

ノネコ

Felis sylvestris catus

分類:
哺乳綱 食肉目 ネコ科
和名:
ノネコ・ネコ
学名:
Felis sylvestris catus
英名:
Feral cat
原産地:
西アジア
指定項目:
重点対策種(沖縄県)・緊急対策外来種(環境省)

ノネコとは、ネコが野生化したものを指します。「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」第2条第7項で規定された狩猟鳥獣であり、山野等において、おもに野生生物を捕食して生きているネコのことを言います。市街地または村落を徘徊しているようないわゆる「ノラネコ」は含まれません。

形態・生態

中東から北アフリカに分布するリビアヤマネコを家畜化したもの。頭胴長50cm前後。体重はオスで3~6kg、メスで2.5~4.5kg程度。体色や模様はさまざまなタイプがある。ネズミ類などの小型哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類を捕食する。繁殖は基本的に年1回で、産仔数は4~5頭程度。生後5~9か月で性成熟する。


沖縄への侵入経路と分布域

県内の分布:沖縄島をはじめとする県内各地

人間に捨てられたネコが野生化し、野生生物の生息地に入りこんでいます。


生態系への影響

捕食による在来小動物への影響、特に希少種や固有種へ深刻な被害を与える恐れがあります。また、捕食だけでなく「遊び」として狩りを行うことがあり、少数個体であっても在来種へ与える影響は大きいと考えられています。

沖縄島北部のやんばる地域において、ノネコがオキナワトゲネズミ・ケナガネズミ・ヤンバルクイナ・ノグチゲラ・カラスバトをはじめ、オキナワキノボリトカゲなどの爬虫類・両生類・昆虫類など、希少種や固有種を含むさまざまな動物を捕食していることが糞内容物の分析により確認されています(河内・佐々木 2002; 城ヶ原ほか 2003; 塩野崎 2016)。特に危機的なレベルにまで分布域が減少してしまっているオキナワトゲネズミにとって、ノネコによる捕食は非常に大きな脅威となっています(小高・亘 2018; Kobayashi et al. 2019)。

ノネコによる希少生物の捕食は、他にも宮古島のキシノウエトカゲや鹿児島県奄美大島のアマミノクロウサギ・ケナガネズミ・アマミトゲネズミなどをはじめ、各地で確認されています。海外の島嶼域においても、ノネコが在来種の減少や絶滅に関与していることがあきらかにされています。徳之島での調査によって、ケナガネズミを襲っているのはノネコだけではなく、キャットフードで飼育されているネコが含まれることもわかっています(Maeda et al. 2019)。ネコを飼う場合は、野生動物を襲ったり、野生動物に病気を運ぶことがないよう、「室内飼い」をすることが必要です。

西表島にはイリオモテヤマネコが生息しており、ノネコはその脅威にもなっています。ノネコが感染症(ネコ免疫不全症候群ウイルス[FIV]、ネコ白血病ウイルス[FeLV] 等)を、イリオモテヤマネコのような野生のネコ科の動物に感染させる可能性が指摘されており、実際に、対馬ではツシマヤマネコにおいて、ネコ由来のFIV 感染が確認されています(伊澤 2002; 阿久沢 2002)。

天然記念物のキシノウエトカゲを捕らえたネコ(来間島)

沖縄県の対策
やんばる地域

やんばる地域に生息するヤンバルクイナ・オキナワトゲネズミ・ケナガネズミといった希少野生動物に対するノネコの捕食は、その対策が急務となっています。

沖縄県では、これらの希少野生動物の保護のため、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)第9条の規定に基づき、やんばる地域(国頭村・東村・大宜味村)の森林域においてノネコの捕獲・排除を行っています。捕獲された個体については、一定期間(原則として、土日祝日を除く10日間)、個体情報を公開し、飼い主の有無を確認することとしています。また、飼い主からの申し出がない場合は、希望者への譲渡も行っています。

また、やんばる地域におけるノネコの生息状況について、自動撮影カメラや関係機関からの情報収集により、モニタリングをおこなっています。とくに塩屋湾~福地ダム以北の地域で撮影もしくは捕獲されたノネコについて、個体識別を行っています。この地域ではノネコは毎年数十頭前後が確認されており、捕獲が行われているにもかかわらず、減少していないようです。

塩屋湾―福地ダム以北の地域におけるノネコの確認数(年度ごと)
県内全域
一生うちの子プロジェクト

沖縄県では、ノネコとなる捨てネコや迷いネコを減らすため、ネコやイヌの飼い方のルールなどを広報する「一生うちの子プロジェクト」を進めています。ネコを飼う際は、死ぬまできちんと飼いましょう(終生飼養)。マイクロチップ等によって飼い主を明示しましょう。不妊や去勢により、無計画に繁殖しないようにしましょう。また、室内飼育を行いましょう。


県内市町村による対策
国頭村・大宜味村・東村

やんばる地域の3村(国頭村・大宜味村・東村)は、ノネコを作らないための「ネコの愛護及び管理に関する条例」を制定しました(平成17年4月より施行)。これら3村でネコを飼育する場合は、マイクロチップの埋め込みと、飼養登録が必要です。また、飼っているネコに避妊・去勢手術を行うこと、室内飼育をすること、ノネコにエサや水を与えないことが求められています。

西表島

西表島には国指定天然記念物のイリオモテヤマネコが生息しています。飼いネコが病気を持ち込んだ場合、イリオモテヤマネコに伝染する恐れがあります。こうした事態を避けるために、「竹富町ねこ飼育条令」により、島にネコを持ちこむ際は、ウイルス検査やワクチン接種・マイクロチップ挿入と町役場への登録などが必要です。また、ノネコを作り出さないために、島でネコを飼う場合は、室内飼いと繁殖の抑制、継続飼養が義務となっており、屋外にいるネコへのみだりな餌やりも禁止されています。


ギャラリー
参考・引用文献
  • 阿久沢正夫. 2002. ヤマネコとFIV(ネコ免疫不全ウイルス)感染症. 日本生態学会編 外来種ハンドブック. Pp. 222-223. 平凡社, 東京.
  • 伊澤雅子. 2002. ノネコ. 日本生態学会編 外来種ハンドブック. P. 76. 平凡社, 東京
  • 河内紀浩・佐々木健志. 2002. 沖縄島北部森林域における移入食肉目(ジャワマングース・ノネコ・ノイヌ)の分布及び食性について. 沖縄生物学会誌 40: 41-50.
  • 城ヶ原貴通・小倉剛・佐々木健志・嵩原建二・川島由次.2003.沖縄島北部やんばる地域の林道と集落におけるネコ(Felis catus)の食性および在来種への影響.哺乳類科学 43: 29-37.
  • 国立環境研究所. 2011-2021. ネコ. 侵入生物データベース.
    https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10220.html
  • 長嶺隆. 2011. イエネコ-もっとも身近な外来哺乳類. 山田文雄・池田透・小倉剛編,日本の外来哺乳類-管理戦略と生態系保全.Pp. 285-316. 東京大学出版会, 東京.
  • Maeda, T., Nakashita, R., Shionosaki, K., Yamada, F., and Watari, Y. 2019. Predation on endangered species by human subsidized domestic cats on Tokunoshima Island. Scientific Reports 9:16200.
  • Kobayashi, S., Kinjo, T., Kuroda, Y., Kinjo, M., Okawara, Y., Izawa, M., Onuma, M., Haga, A., Akaya, Y., and Nagamine, T. 2019. Predation on endangered species by cats in the northern forests of Okinawa-Jima Island, Japan. Mammal Study 45: 63-70.
  • 塩野﨑和美.2016.好物は希少哺乳類奄美大島のノネコのお話.水田拓編著,奄美群島の自然史学.Pp. 271-289. 東海大学出版部, 東京.
  • 小高信彦・亘悠哉. 2018. 中琉球固有種オキナワトゲネズミの保全上の課題:世界自然遺産にふさわしい森林生態系管理に向けて. 森林科学 84: 11-15.