外来種図鑑

沖縄県は、県内の生態系や、県民の生活・社会活動への影響が大きい
以下の外来種について、重点的に対策をとっています。

ヤエヤママドボタル(オオシママドボタル)

Pyrocoelia atripennis

オキナワウスカワマイマイを襲うヤエヤママドボタル幼虫(飼育下) (写真提供:佐々木健志)
分類:
昆虫綱 コウチュウ目 ホタル科
和名:
ヤエヤママドボタル(オオシママドボタル)
学名:
Pyrocoelia atripennis
英名:
Yaeyama window firefly
原産地:
八重山諸島(石垣島・西表島・小浜島・竹富島・黒島・波照間島)
指定項目:
重点対策種・指定外来種(沖縄県)

八重山諸島原産の大型の陸生ホタルです。沖縄島と与那国島に持ち込まれ、分布を広げています。とくに沖縄島では、幼虫が希少な陸産貝類を捕食しているほか、近縁な在来種(オキナワマドボタル)を排除するおそれがあります。


形態・生態

大型のホタルで、成虫はオスで体長14~18mm、メスは体長21~25mmとなります。メスは日本のホタルの中で最大です。オス成虫は胸部が赤色で、翅は黒色です。胸部には一対の半円状の透明な部分があり、マド(窓)ボタルの名の由来となっています。メス成虫は全身が赤みを帯びた肌色で、腹部が大きく、翅は退化して飛ぶことはできません。幼虫は細長く、黒褐色で白いふちどり様の斑紋があります。終令幼虫は大型で、体長はオスで約3cm、メスは6cmを越えます。成虫・幼虫共に、腹部後端が明るく発光します(卵や、さなぎも発光します)。

森林、耕作地、公園、御嶽、墓地など、さまざまな環境に生息します。幼虫は一年中みられ、夜間に地上を歩きまわるほか、低木に登ることもあります。成虫は10月~1月に出現します。

幼虫は、カタツムリなどの陸産貝類を捕食します。成虫は何も食べずに繁殖に専念します。

オス成虫(写真提供:佐々木健志)
メス成虫(写真提供:佐々木健志)

<近似種(オキナワマドボタル)との区別> 

侵入地の沖縄島には、在来種のオキナワマドボタルが分布します。オキナワマドボタルの成虫は小さく(オス約1cm、メス約1.5cm)、またオス成虫の胸部側緣は黒色に縁取られる点で異なります。

ヤエヤママドボタルの幼虫は、体が大きいこと(メスの終齢幼虫は最大で6cm近くになる)、各歩脚の先端部の節(跗節)の付け根1/3が黒色であること(オキナワマドボタル幼虫の跗節は全て白色)、胸部が細長いこと、そして第8胴節背板の側緣の白帯が左右に分かれること(オキナワマドボタルでは中央でつながる)で見分けられます。

ヤエヤママドボタル幼虫とオキナワマドボタル幼虫の見分け方(写真素材提供:佐々木健志)
ヤエヤママドボタル幼虫とオキナワマドボタル幼虫の見分け方(写真素材提供:佐々木健志)
ヤエヤママドボタル幼虫とオキナワマドボタル幼虫の見分け方(写真素材提供:佐々木健志)
ヤエヤママドボタル幼虫とオキナワマドボタル幼虫の見分け方(写真素材提供:佐々木健志)
ヤエヤママドボタル幼虫とオキナワマドボタル幼虫の見分け方(写真素材提供:佐々木健志)
ヤエヤママドボタル幼虫とオキナワマドボタル幼虫の見分け方(写真素材提供:佐々木健志)

侵入経路と分布

2003年に沖縄島の八重瀬町東風平で生息が確認されました(Sato 2005)。その確認範囲は広がり続けており、すでに沖縄島南部では広域に生息しています。

沖縄島では南部以外にも、浦添市・西原町・中城村・恩納村で発見されています。こうした飛び地的分布は、植栽をはじめとする緑化・園芸資材と一緒に、卵や幼虫が持ち込まれたからだと考えられています。このように沖縄島内で生息域が広がった結果、資材等とともに、その他の地域や他の島々にも、持ち込まれる可能性が高くなります。

大型のホタルで、成虫・幼虫とも明るく光るため、観賞用、あるいは環境教育のためと称して、持ち運ばれて放されるおそれもあります。


生態系への脅威

幼虫は陸産貝類を捕食します。樹上生の陸産貝類も捕食するため、とくに高密度に生息する地域では、在来の稀少種(アマノヤマタカマイマイをはじめとするヤマタカマイマイ類)を含む陸産貝類に深刻な影響を与える可能性があります。

近縁なオキナワマドボタルと餌や生息地をめぐって競合し、排除してしまう可能性があります。


沖縄県の対策

ヤエヤママドボタルは既に沖縄島中南部に広く生息しており、園芸・緑化などの資材等の移動に伴って、やんばる地域を含む沖縄島北部や、沖縄県内の他地域にも侵入することが懸念されます。

拡散の防止と発見地域からの排除

沖縄島で、ヤエヤママドボタルの拡散を防止することに努めます。ヤエヤママドボタルの防除が必要な場所では、手捕り等により駆除を行います。周辺地域や生態系保全上重要な地域では、目視調査により生息状況を確認します。さらに、フェロモンなどを利用した効果的なトラップの開発にも取り組みます。

在来種のモニタリング

ヤマタカマイマイ類など、希少な在来種の生息状況に影響が出ていないかどうかを知るためのモニタリングに取り組みます。

普及啓発

ホームページやチラシ配布等を通して本種の存在を県民へ周知するとともに、発見情報の収集や監視・調査に向けた協力が得られるよう取り組みます。造園業者等にはとくに注意喚起を行い、人為的移動をできるだけ防止します。


ギャラリー
オス成虫
幼虫(背面)
幼虫(腹面)


参考・引用文献
  • 大場信義・後藤好正・川島逸郎. 1995. 日本産マドボタル属幼虫の色彩斑紋パターン. 横須賀市博物館研究報告(自然科学)43: 1-9.
  • Sato, M. 2005. A record of Pyrocoelia atripennis Lewis (Coleoptera, Lampyridae) from Is. Okinawa-jima in the Ryukyus. Elytra 33: 530.